自院の人間ドック価格をどう決めるか

人間ドックの価格設定は、その施設がどのような受診者様にどのような価値を提供するのかを提示する重要な経営判断です。新たに健診施設を開設する場合はもちろん、長年運営している施設でも、一度立ち止まって価格設定を見直してみる価値があります。
まずは競合施設との比較(別コラムご参照)を行い、自院のポジショニングを整理した上で、価格を検討していきましょう。

人間ドックの価格を決める4つの観点

人間ドックの価格設定は、ビジネス一般における価格決定手法(①コストベース ②競合ベース ③バリューベース)に加え、医療業界特有の④保険点数ベースを加えた4つの観点で、多角的にアプローチすることが基本となります。

①コストベース

もっとも基本的な考え方です。検査に必要な人件費、材料費、設備費などを積み上げ、適切な利益を加えて価格を決定します。赤字にならない価格設定を行うための土台となります。

②競合ベース

近隣施設や同規模施設が、同等のサービスをいくらで提供しているかを参考にする考え方です。
価格が相場より大きく高ければ選ばれにくくなります。一方で、安すぎる価格は利益を削るだけでなく、ブランドイメージにも影響することがあります。

競合分析については別コラム「競合施設との比較」も併せてご覧ください。

③バリューベース

原価や競合相場にとらわれず、そのサービスが顧客にもたらす「価値(予防・安心・快適さ等)」に対して価格を設定する考え方です。例えば

A:毎年10万円の人間ドックを継続して受診したことで、がんを早期発見でき、10年後も健康でいられる
B:10年間まったく受診せず、10年後に進行がんになってから100万円以上の治療費や多大な心身の負担を支払う

「AとBではどちらがよいですか? 言うまでもなくAですよね」
という考え方がバリューベースの一例です。

④保険点数ベース

公的保険診療における「診療報酬点数(1点=10円)」をベースとする考え方です。
医療現場では合理性のあるロジックであり、特にオプション検査の価格を決める際によく使われます。

ただしこれには落とし穴があります。保険点数は必ずしも医療現場の実際のコストを反映しているとは限らないことです。

例えば大腸内視鏡検査の場合、公的保険における検査(全大腸観察)の基本点数は1,550点(15,550円相当)です。
一方、実際の大腸内視鏡検査の1件あたり費用は人件費だけでも

  • 医師…1名、少なくとも1時間(手技30分+準備や結果レポート記述で30分)
  • 看護師…複数名、数時間(前処置、検査中、検査後に患者様の鎮静から戻るまでの見守り対応)
  • 内視鏡技師…1名ないし複数名、1~2時間(検査機器の準備、片付け等)

少なくともこれくらいはかかります(現場から「もっとかかる」とご指摘があるかもしれません、すみません…)。
基本点数1,550点では人件費すらペイすることが難しいのは明らかです。

保険点数は医療関係者間の共通言語として院内での説明などに比較的使いやすいのですが、実際の原価など実情を必ずしも反映していない点は要注意です。

自院のポジショニングを決める

価格を決める前に「自院は市場のどのポジションを目指すのか」を整理することが重要です。
下図は、人間ドックの価格帯ごとのサービス内容を大まかに整理したものです。

人間ドックの価格帯とサービス比較

各価格帯毎の大まかな特徴は以下です。
自院の設備、スタッフ体制、ブランドイメージ、ターゲット顧客のニーズを考慮し、どのセグメントで勝負すべきかを見定めましょう。

3万円

協会けんぽ等の補助が前提、または簡易な日帰り健診
胃の検査はX線(バリウム)
食事提供なし

5万円

スタンダードな日帰り人間ドック
マーケット全体では一番のボリュームゾーンで、顧客も多いがプレイヤーも多く激戦区
胃の検査はX線が中心だが、差額を支払うことで胃カメラが選択可能となる
婦人科、乳腺はオプションで選択可能
施設によっては食事、あるいは食事券が出る

10万円

プレミアムな日帰り人間ドック
胃の検査は内視鏡で、オプションで鎮静剤使用も選択できる
婦人科の検査が標準で備わる
検査後は美味しい食事を楽しめる
当日に結果が出る検査に関し、その日に医師による結果説明を受けられる
オプションで下部消化管内視鏡やMRIが選択できる
オプションでPET-CTを選択できる場合もある

20万円

VIP向け総合ドック
宿泊プランもあり、下部消化管内視鏡やMRIなども標準で備わる
PET-CTも選択可能
非会員制では最高ランク

100万円

会員制の総合医療サービス
人間ドックだけでなく、主治医制や24時間サポート、専用コンシェルジュがつく最高ランクのサービス
人間ドック料の支払いではなく、年間契約の会費制
完全なプライベート空間で、検査当日は実質的に貸し切り状態に近くなる
有名大学病院や私立病院がごく一部の方に提供するサービスで、ホームページが存在せず、一般には存在を隠されている施設も多い

詳細な価格を決める

大まかな価格帯が決まったら、個別の価格を設計します。

①標準コースの設計

例えば以下の点を考慮します。

  • 胃X線コースと内視鏡コースの差額をいくらにするか
  • 胃検査なしコースを設けるか
  • 婦人科検査を標準とするかオプションとするか
  • 男女で価格を分けるか

②医療スタッフの成長やモチベーションアップにつながる

上述の通り「原価ベース」「競合比較ベース」「バリューベース」「保険点数ベース」を総合的に勘案して決定します。

価格案は説明できることが重要

価格案は重要な意思決定です。病院長だけでなく、理事長や経営会議などの承認を必要とすることも少なくありません。
その際に求められるのは「なぜこの価格なのか」という説明です。

価格には必ず根拠が必要です。
コスト、競合、市場価値、保険点数など、複数の視点から整理しておけば、院内合意も得やすくなります。

また収支シミュレーション作成も効果的で、目標受診者数に応じた想定売上・利益のインパクトを試算して示すことも、経営層からの信頼を得やすくなり、迅速な意思決定につながります。

まとめ

人間ドックの価格設定は、単なる「数字決め」ではなく
「自院がどのような価値を患者・受診者に提供するのか」
を定義する経営戦略そのものです。

概念的なフレームワークをベースにしながら、自院のリソースや強みに合った持続可能な価格体系を築いていきましょう。